『窓の向こうに』 |
窓越しに見える空は、曇っていた。 まだ夜が明けて間もない。日が高くなる頃には、もう少し晴れていて欲しいけれど。 エマは屋根裏にある自室で支度をしながら、窓の向こうを見やる。 ジョーンズ家は、あちらの方角にあるのだとか。屋根の波でもちろん見えるはずもないが、教えてもらったかの家は、あの屋根の先、ずっと向こうにあるという。 ウィリアムのことを思うと、エマの胸は熱くなる。身体の奥から、熱い甘やかなものが溢れてくるのだ。 それは先日の水晶宮でのことがあってから、いっそう強くなっていた。 (これが……、誰かを好きになる、ということなんだわ) 目を伏せて思いにひたるエマの耳に、鳥の声が聞こえた。 はっと現実に戻るエマ。 曇った空に、数羽の鳥が飛んでいた。 ここはロンドン、ストウナー家。屋根裏にある自分の部屋。ウィリアムと過ごしたあの水晶宮ではなかった。 ―――エマの1日が、始まる。 |
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