『父の日 ―father』 |
父の日ということで、トグサは子供たちから絵をプレゼントされた。 画用紙にクレヨンで描かれた自分の顔である。正直、人間の顔だと判る程度の絵なのだが、トグサにとって嬉しいことこの上ない。 「自分たちで渡したいって、さっきまで頑張って起きてたんだけどね」 妻は、ベッドで眠る子供たちをそっと見る。 毎度のこと、仕事を終えて帰宅できるのは深夜だ。トグサは妻から受け取った絵を手に、足音を忍ばせて子供たちのもとへゆく。 無邪気に眠る顔は、まったくもって天使だ。こんなにもかわいいのは罪である。 「ありがとな」 起こさないよう気をつけながら、トグサは子供たちの頭を撫ぜた。 どんな夢を見ているのか、嬉しそうな顔をしたのは気のせいだろうか? ダイニングに戻ったトグサは、椅子に腰掛け子供たちの描いてくれた絵を広げた。 頭上から妻が絵を覗きこむ。 「ね、なかなか似てると思わない?」 「男前のところか?」 「んん〜? どうかなー?」 笑みながら妻は言葉を濁す。そんな妻の腕を、トグサは軽くはたく。 「あぁ、お茶がこぼれちゃう」 「あ、ごめん」 すっかり夜食の時間に、妻はテーブルに夕食を用意してゆく。トグサには夕食を、自分には軽い夜食を。 「おれもさあ、ガキんとき親父の絵をこうして描いたよなあ。まだ画用紙にクレヨンで描くんだぁ」 「社会がどんなに便利になっても、味のあるものは残っていくのよ」 「うん……」 自分の子供が父の日に、父親を描く。そういえば、そういうこともある。絵をもらうまでは自分とは関係ないことだと、漠然と思っていたが。 子供たちの描いた絵のトグサは、にっこり笑っているように見える。 こういう顔を描いてくれたのがまた嬉しい。仕事の疲れなど、どこかに行ってしまった。 「何にやけてるの」 「へへ。おれって、幸せ者だよなーって」 「まあ、なんてでれでれしてるんでしょ。ごはん、冷めちゃうよ」 「うん、ありがと。食べる」 トグサは自画像を横に置く。 妻を前に、自画像を横に、子供たちは向こうに。 トグサは遅い夕食を始めた。 こういう瞬間が、トグサには何よりもとっておきの宝物だった。 |
攻殻機動隊 一覧へ |
おしながきへ |