『ケツイ ke tsu i』 |
――― 判っている。 ここのハルカは、自分の知るハルカの過去ではないのだと。 判っている、痛いほどに。 けれどカラスの心は、彼女を別人物だと割りきることができなかった ――― どうしても。 ハルカとは違う時空を選んでいるハルカ。 それでも、カラスの知るあのハルカを辿っていけば、同じハルカにぶつかるのだ。 いまはもう、いないハルカ。 この時空では、ちゃんと生きているハルカ。 自分をカラスと呼び、過去に違う道を選んだ自分をユウと呼ぶ。 (まだ何も知らない、あんなにもまだ、子供で) 15歳も年下になってしまったハルカ。 子供だと判っている。 あのハルカでもないとも、判っている。 頭では判っているのに、 ――― ハルカの中に、ハルカを見てしまう、探してしまう。 魂の奥底から愛しいハルカ……。 ひとりきりで、叶わないことをしている。無茶をしている。 あまりにも無謀すぎる。 けれど。 (ハルカには、そうしたいだけの価値があるから) カラスは空を見上げた。 暗い空だ。 重たい空だが、ラクリマとは違う透明さがある。 裏切り者と呼ばれてもいい。たったひとりになってもいい。 「おれは、ハルカを守る」 声をこぼすカラス。 もう、失いたくはないから。 二度と、あんな想いはしたくないから……。 だから ――― 。 カラスの眼は、強い想いを宿していた。 |
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