『リボン ri bo n』 |
「ねえカラス」 ハルカは前を行くカラスに声をかけた。 「その髪の毛……うっとうしくない?」 「……いや」 しかしハルカは、じっとその色の薄い髪を見つめる。 おもむろに、ポケットからリボンを取り出した。 「ちょっと、ここ、座ってみて?」 判らないままに、言われるまま縁石に腰を下ろしたカラス。そんな彼の髪を、ハルカは手に取った。 びくっとカラスの肩がはねる。 「えへへ。ホントはアイに渡すつもりのリボンだったんだけど、これ、意外とカラスにも似合うかもと、思って、ね」 「な、何を……」 困惑しきったカラスの声。 ハルカは気にせず、カラスの髪をリボンで束ねていった。 「ん。いい感じ。どう? 似合ってるか……な……」 カラスの正面にまわりこんだハルカの顔が、蒼白になり、引きつった。 目の前に、カラスの険しい顔がある。 ――― ポニーテール姿の。 ハルカとお揃いのピンクのリボンが、風に揺れている。 沈黙と視線が、痛い。 「あ、の。……やっぱり、世の中、やめておいたほうが、いいことも、あるよ、ね?」 視線を泳がせながら、ハルカはカラスのリボンをほどいた。 ぱさりと落ちる髪。 依然変わらないカラスのしかめっ面。 「あはは。き、気にしなくてもいいからね。じゃあ、先にみんなのところに行ってるね。その、気にしないでね」 ひらひらと手を振って、先を急ぐハルカ。そのよそよそしい態度。 気にしないでというそのことこそが、すべてを物語っているではないか。 カラスの口から、幾重にも重たい溜息が盛大に吐き出されたのは、言うまでもなかった。 |
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