『遠雷の記憶』 |
静かな雨が降り続いている。 夜空を覆う雲に、遠く夜景の明かりがおぼろに映っていた。 ひとみは目を伏せ、耳を澄ませた。 光とともに深い響きが、暗い雲から空に流れる。 その音に、ひとみは淡い想いを思い出す。 雷の音は、過去に出逢ったあのひとを思い起こさせる。切ない胸の痛みとともに。 ―――アレン・シェザール。 どうしてだろう。こちらの世界に戻って何年も経つというのに、何故だか雷の音を聞くと、アレンのことが思い出されてならない。 あの日、激しい雨に打たれ街をさまよっていたあのとき、同じく街をさまようアレンと出会い、引き寄せられるように唇を重ねた。いまではあの出来事は仕組まれたものと判っている。そしてかえって、アレンではなく、バァンに心惹かれていた自分を自覚をもした。 あの日。あの雨の日。 それなのに、どうしてなのだろう。最近雨が降ったり、雷を聞くたびに、アレンを思い出すのだ。 ―――不思議。 こんなにも穏やかな気持ちでアレンのことを想うなど。 遠雷が聞こえる。 甘く切なく、胸が震えていた。 |
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