『心に秘めて』 |
ガイアにひとみがやってきて、どれくらいが経ったろう。事件や戦いとともに、目まぐるしく日々は過ぎてゆく。 そんな中、ひとみの気持ちがバァンに流れ出していることに気付いても、アレンにはどうすることもできなかった。 アレン自身にもさまざまなことが一度に降りかかってきたし、正直なところ、それだけで手一杯だった。 でも、それでも、ひとみの目がバァンを探すたび、アレンの気持ちは引き裂かれそうになる。 (どうして ――― ) せめて違うタイミングで妹が見つかっていれば。 もっと早く、再会できていれば。 もっとちゃんと、ひとみを抱きしめていれば……。 結末は違うものになっていただろうに。 溢れるほどのひとみへの想い。 それは決して、ひとみに知られてはならない。 彼女はもう、バァンを愛し始めているのだから。 自分はもう、通り過ぎてしまったのだから。 窓の向こうに、バァンと一緒のひとみがいる。 光の下、楽しげだ。 アレンは眩しく、そして胸の痛みとともにそれを見やる。 「隊長」 窓辺で黙り込んでいると、ガデスが声を掛けてきた。 ガデスは、アレンの気持ちを知る、数少ない人物だ。 「大丈夫だ」 「とは思いますけどね」 ガデスも、窓の外のふたりに目をやった。 「見せつけてるって自覚がないところが、罪ですな」 「仕方がない。ふたりが決めることだ」 「……らしくないんじゃ? 女殺しの異名を取る隊長がそんな弱気な」 「ガデス」 アレンの声音は、急に神妙なものになる。 眼差しはひとみに向けられたまま、静かに言う。 「言うんじゃないぞ」 「……判ってますよ。隊長が言わないのに、なんだっておれが言うんですか」 「そうだな」 ちらりと、アレンは腹心の部下に和らいだ眼差しをやる。 「隊長にも、失恋ってのがあるんですねぇ」 ガデスはしみじみと言った。 まったくだと、アレンは思う。 (かなう恋をしてみたいものだ……。ひとみであればいいと思ってたのに) 遠く、ひとみが笑っている。 ひとみが笑うと、バァンも嬉しそうに笑う。 胸が、痛い。 けれど、決して自分の気持ちは口にはできない。 バァンとともにいるひとみはとても楽しげで幸せそうだ。 ひとみが幸せなら、それでいい。 だから ――― この気持ちは、秘密のままで。 ひとみには、決して告げることのない想い。 いつかは、時が癒してくれるのだろう。 (あのときのように……) アレンは空に目を移す。 幼子を残して命を手放した、あの美しいひと。 マレーネの瞳のような青い青い空が、そこには広がっていた ――― 。 |
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