窓の向こうに
〜英國戀物語エマ〜
 
    
 窓越しに見える空は、曇っていた。
 まだ夜が明けて間もない。日が高くなる頃には、もう少し晴れていて欲しいけれど。
 エマは屋根裏にある自室で支度をしながら、窓の向こうを見やる。
 ジョーンズ家は、あちらの方角にあるのだとか。屋根の波でもちろん見えるはずもないが、教えてもらったかの家は、あの屋根の先、ずっと向こうにあるという。
 ウィリアムのことを思うと、エマの胸は熱くなる。身体の奥から、熱い甘やかなものが溢れてくるのだ。
 それは先日の水晶宮でのことがあってから、いっそう強くなっていた。
(これが……、誰かを好きになる、ということなんだわ)
 目を伏せて思いにひたるエマの耳に、鳥の声が聞こえた。
 はっと現実に戻るエマ。
 曇った空に、数羽の鳥が飛んでいた。
 ここはロンドン、ストウナー家。屋根裏にある自分の部屋。ウィリアムと過ごしたあの水晶宮ではなかった。
 ―――エマの1日が、始まる。
 
 

 ごあんない365のお題         目次


       +++ 365のお題からは…… 

          67.曇り空
          201.窓
          303.屋根裏

          ……を使いました。 +++



     *あとがき*

 『エマ』のしっとりしたあの空気。いいですよね。アニメの新しい形を見たような気がします。
 
 時代を考えると、エマとウィリアムは難しいと思います。
 でも……、うまくいって欲しい。
 だめになって欲しくない。そう思います。
 
 久しぶりに掌編を書けて、ちょっとほっとしています。
 
 
高萩ともか・作