頭の中は、もう真っ白だった。
つくしはただまっすぐに立って、F4に媚びるだけの奴らに向き直る。殴られても、立ち上がる。蹴られても、起き上がる。それだけだ。
けれど、道明寺の気持ちが離れてしまったせいなのか、これまでのようにがむしゃらに戦うファイトが見つからない。
何度殴られただろう。まともに立っていられない。足がふらつく。
思う間もなく、くらりとめまいがし、グラウンドに倒れてしまった。身体が重い。立ち上がれない。
「楽にしてやる」
誰かが言う。何を? 誰が? 楽に? もう判らない。もう、疲れてしまったから。もう、いい。つくしはぼんやり覚悟した。
倒れこむつくしを取り囲んでいたひとの輪が乱れたのは、そのときだった。
「道明寺さん…」
そう聞こえた。でも、聞き間違いだ。
(あいつがくるわけないじゃない)
おれを裏切ったなと言ったあの眼差し。怒りより、悲しみにあふれていた。それがかえって胸に堪えた。潔白だとはいえ、道明寺を傷つけたのは事実。だから、そう都合よく来てくれるはずがない。
けれど……この影は。
かすむ視界に降りてくるのは、誰。真っ白な空に、黒いシャツとくせ毛が見える。いまのいままで、つくしを蹴りあげようとしていた奴がいた場所に。道明寺が。
―――道明寺がいる。
つくしのもとに膝をつく道明寺の眼差しは、いたわりに満ちていた。優しくつくしを起こし、その胸に抱き寄せた。
ぼんやり見えた、道明寺が奴らを追い払った姿は、幻覚ではなかったのだ。
それはまるで騎士のようだった。傷ついた自分のもとに舞い降りてきてくれた、すべてを預けられるひと。ばかげているかもしれないけど、そう思えてしまう。
なんて大きいんだろう。
道明寺の腕、足、胸、包み込むような、真っすぐな眼差し。
怪我を負ったつくしの頬にそっと触れながら、
「おまえが違うっていうなら、おれはおまえを信じる」
絞りだすような、その言葉。
誤解が解けたのだと判った。
やっと戻ってきてくれた。判ってもらえた。そんな熱い思いと同時に、ひとりで戦った悲しみと恐怖がこみあげてきて、涙となってあふれ出た。子供みたいに涙が止まらない。
不思議と、道明寺の前では素直になれた。もう肩肘張らなくてもいいのだ。
道明寺も判ってくれるのか、そんなつくしを抱き締めてくれる。誤解していた自分への許しを乞うかのように。
傷つきあいながら、ふたりは抱き締めあい、互いの存在を確かめあった。
何かが、変わろうとしている。
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