君の専用機
 ―operation voice
〜攻殻機動隊〜
 
   
「ねえねえトグサくん」
 待機中に、タチコマが訊いてきた。
「ボク、トグサくんの専用機になってみたいな」
「? なにをいきなり」
「だって、バトーさんにはいるでしょ、専用機が」
「あ? ああ」
「誰かの専用機になるって、どんな感じなのかなーって」
「おれじゃなくてもいいだろ」
「いーの、いーの。ボク、いたわってあげるよ。『気をつけてね、あなた』」
 ぎょっとするトグサ。
「成人女性にしてみました。『どう? 似合う?』」
 タチコマはトグサの困惑の理由に気付かず、女性の声で喋る。
(あ、あいつそのものじゃねーかっ!)
 タチコマの声は、わざととしか思えないほど、まさしく妻の声だったのだ。
『次からは、わたしを指名してね』
「その声でそういうことを言うなっ」
『どうして?』
「どうしてもだ」
『そんなんじゃ判らないわ』
「だからその声をやめろと言ってるだろ!?」
『ひどい……』
 見た目はタチコマであっても、あまりにうちひしがれる声に、トグサの良心が必要以上に痛む。
「判った、判ったから! 専用機でもなんでもいいから、とにかくその声だけはやめてくれ!」
「ホント!?」
「ああ」
「やったァ〜!」
 タチコマは無邪気に喜ぶが、――― しかし、トグサにタチコマの区別がつくわけがない。出動のたびハンガーで、『浮気者ぉ〜』と、妻の声で嘆かれる日々が続くことになるとは、このときのトグサは知る由もない。

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高萩ともか・作