ケツイ ke tsu i
〜ノエイン もうひとりの君へ〜
 
   
 ――― 判っている。
 ここのハルカは、自分の知るハルカの過去ではないのだと。
 判っている、痛いほどに。
 けれどカラスの心は、彼女を別人物だと割りきることができなかった ――― どうしても。
 ハルカとは違う時空を選んでいるハルカ。
 それでも、カラスの知るあのハルカを辿っていけば、同じハルカにぶつかるのだ。
 いまはもう、いないハルカ。
 この時空では、ちゃんと生きているハルカ。
 自分をカラスと呼び、過去に違う道を選んだ自分をユウと呼ぶ。
(まだ何も知らない、あんなにもまだ、子供で)
 15歳も年下になってしまったハルカ。
 子供だと判っている。
 あのハルカでもないとも、判っている。
 頭では判っているのに、 ――― ハルカの中に、ハルカを見てしまう、探してしまう。
 魂の奥底から愛しいハルカ……。
 ひとりきりで、叶わないことをしている。無茶をしている。
 あまりにも無謀すぎる。
 けれど。
(ハルカには、そうしたいだけの価値があるから)
 カラスは空を見上げた。
 暗い空だ。
 重たい空だが、ラクリマとは違う透明さがある。
 裏切り者と呼ばれてもいい。たったひとりになってもいい。
「おれは、ハルカを守る」
 声をこぼすカラス。
 もう、失いたくはないから。
 二度と、あんな想いはしたくないから……。
 だから ――― 。
 カラスの眼は、強い想いを宿していた。
 

 ごあんない365のお題         目次


       +++ 365のお題からは…… 

          242.裏切り
          314.もういないあなたへ
          
          



          ……を使いました。 +++



     *あとがき*

 
 
 
 
 
 
 
 
 
高萩ともか・作