彼はもうずっと、ひとり悶々と悩んでいた。
これまで自分は、悲しいくらいに不甲斐なくて嗤えてしまうくらい無様だった。
確かに、故意に情けない男を演じたこともありはするが、本気で同情されるくらい本当に失態を犯したこともある。
このままでいいのだろうか。
いいわけがない。
なんといっても、自分は彼女よりも人生経験が豊かなはず。手を差し伸べるよりも差し伸べられる回数が多くあってはならない。
変わらなければ。
( ――― よし!)
自分は、もういままでの自分なんかじゃない!
「わたし、誰からも頼られるような立派な男になります!」
高らかなアベルの声が、その勢いとは裏腹に、国務聖省の廊下に虚しく響いて……溶けた。
「……そうですか」
エステルは、隣でいきなり憤然と鼻息荒く宣言したアベルを見上げ、どうでもいいことのように相槌を打った。
アベルの中に空っ風が吹き抜け、がくりとその肩が落ちる。
「ちょ、……ちょっと、あの、エステルさん?」
「はい?」
「あのですね、わたしの一大決心を聞いていただけたと思ったんですが?」
「ええ、お聞きしました。すごいですね、頑張ってくださいね」
思いきり信用されていない。適当にあしらうだけの笑顔が、なんて残酷なんだろう。
何故だ。
何故だ?
何故なんだ……!?
「おおおお、主よ、憐れな子羊が、こんなんでいいのでしょうか……?」
すたすたと先を歩くエステルの背中に、早速他力本願なアベルである。
そんな彼が自分の間の悪さを自覚したのは、翌日になってからだった。
自分が人生の決意を表明したその日が、まさにその日は、何かを宣言するに一番不適切な日だということを、アベルは翌日の昼、教授に教えられてやっと気付いたのだった。
――― 4/1。
エイプリールフール。
アベルの復活は、更にその翌日になっても、まだまだ見込めなかった ――― 。
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