月がゆっくりと、夜の空を横切っていた。
厚く垂れ込めていた雲の切れ目からの、眩しい月明かりが差し込んだ気配に気付いたわけでもなかったが、ふと、アベルは目を覚ました。
静かだった。
夜遅くまでの雪が、音を閉じ込めているのかもしれない。
思考のすべてが真っ白になって闇へとたゆたい消えゆこうとするくらい、あまりにも静かな夜だった。
だからこそ、耳元で聞こえる密やかな息遣いが、震えるほど胸をからめとるのかもしれない。
幾重にもカーテンが重ねられた寝台の中、アベルの目はごくごく薄い月明かりを頼りに、間近な顔の輪郭を見つめる。
なめらかな頬に規則正しく、繰り返される息遣い。
どんな夢を見ているのだろう……?
頬にかかる髪にそっと触れながら、アベルは瞼の奥にある蒼い瞳が見つめるものを思った。
――― 静かだ。
すべての音が透き通って、結晶のように闇に潜んでいる。
アベルはしばらく彼女を見つめ、そして再び、柔らかな眠りの海へと想いを漂わせた。
真夜中のふいの目覚めはとても静かで、途方もなく優しかった。
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